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ストレス克服研究グループ(PI: 内田 周作)

背景・目的

近年のストレス社会を背景に、うつ病や不安障害などの精神疾患患者が急増しています。私たち人間の脳には、ストレッサーに対する適応・防御システムが備わっているため、精神的安定性を維持しながら通常の生活を送ることができます。しかし一部の人は、精神的・肉体的・社会的ストレスに適応できずに精神疾患を発症します。このように、ストレッサーに対する防御機構には個人差があり、またストレス反応として表出する行動変容・精神症状も多種多様です。

ストレスを受けた脳内で起こっている現象を理解し、そのメカニズムを解明することは、精神疾患の病態解明や治療法の開発に繋がることが期待できます。ストレス克服研究グループでは、ストレスによる脳内ネットワーク変容という、複雑かつ未解明のシステムへと切り込むことで、生命現象や精神疾患の理解を飛躍的に深化させ、治療技術の創出をめざします。この目標達成のため、慢性ストレス曝露マウスにおける行動変容の個体差(個性)を精神疾患における症状の多様性と捉え、精神疾患の中核をなす症状発現に関わる分子・神経メカニズムの解明に挑みます。

 

精神疾患の診断カテゴリーは、複数の症状の組み合わせを用いた操作的診断基準に基づくものであるため、異種性が高いことが知られています。このような診断カテゴリーに基づく病態研究や治療法の技術開発には限界があり、生物学的な病態に基づいた精神疾患の層別化技術の開発やバイオマーカーの同定は、新たな治療法確立を加速するために必要不可欠と考えられます。米国国立精神衛生研究所(NIMH)のResearch Domain Criteria (RDoC) プロジェクトにおいても、神経回路を基に5つの機能ドメインを定義づけており、 それぞれの機能に関わる遺伝子、分子、細胞、神経回路、生理、行動の各解析ユニットから、その生物学的な基盤を明らかにしていく方向性が示されています。

一方、従来のマウスを用いたストレス研究は、集団を平均化したデータで議論しているために個体差を考慮していません。近交系マウスは遺伝的に均一な集団であるために個体差をほぼ無視できる、と考えられてきました。しかし、最近のエピジェネティクス研究にみられるように、遺伝的背景が同じマウスにおいても特定のゲノム上のDNAメチル化パターンやヒストンタンパク質の化学修飾パターンが個々のマウスで異なっており、個体差が存在することが明らかとなっています。当グループは、ストレスによる生じる様々な行動変容に関わる分子・神経メカニズムを明らかにすることで、精神疾患症状の改善につながる制御法を開発します。

 

さらに、非臨床研究において明らかにした症状発現に関わる脳内メカニズムを臨床における神経ネットワーク解析に適用します。逆に、臨床研究より明らかとされた精神疾患症状に関わる神経ネットワークについて、ストレス負荷モデル動物を用いて解析することでPOC(proof of concept)確度のより高い非臨床評価系の確立に繋げます。このような臨床・基礎双方向のアプローチにより、ヒトPOC確度を担保しつつ、精神疾患における症状発現のメカニズム解明を目指します。

これまでの主な研究成果

  • Uchida S, Teubner BJ, Hevi C, Hara K, Kobayashi A, Dave RM, Shintaku T, Jaikhan P, Yamagata H, Suzuki T, Watanabe Y, Zakharenko SS, Shumyatsky GP. CRTC1 Nuclear Translocation Following Learning Modulates Memory Strength via Exchange of Chromatin Remodeling Complexes on the Fgf1 Gene. Cell Reports 18(2):352-366, 2017
  • Abe-Higuchi N, Uchida S, Yamagata H, Higuchi F, Hobara T, Hara K, Kobayashi A, Watanabe Y: Hippocampal Sirtuin 1 Signaling Mediates Depression-like Behavior. Biological Psychiatry 80(11): 808-809, 2016
  • Higuchi F, Uchida S, Yamagata H, Abe-Higuchi N, Hobara T, Hara K, Kobayashi A, Shintaku T, Itoh Y, Suzuki T, Watanabe Y: Hippocampal MicroRNA-124 Enhances Chronic Stress Resilience in Mice. The Journal of Neuroscience 36(27): 7253-7267, 2016
  • Uchida S, Martel G, Pavlowsky A, Takizawa S, Hevi C, Watanabe Y, Kandel ER, Alarcon JM, Shumyatsky GP: Learning-induced and stathmin-dependent changes in microtubule stability are critical for memory and disrupted in ageing. Nature Communications 5: 4389, 2014
  • Uchida S, Hara K, Kobayashi A, Otsuki K, Yamagata H, Hobara T, Suzuki T, Miyata N, Watanabe Y: Epigenetic status of Gdnf in the ventral striatum determines susceptibility and adaptation to daily stressful events. Neuron 69(2): 359-372, 2011
  • Uchida S, Hara K, Kobayashi A, Fujimoto M, Otsuki K, Yamagata H, Hobara T, Abe N, Higuchi F, Shibata T, Hasegawa S, Kida S, Nakai A, Watanabe Y: Impaired hippocampal spinogenesis and neurogenesis and altered affective behavior in mice lacking heat shock factor 1. PNAS 108(4): 1681-1686, 2011
  • Uchida S, Hara K, Kobayashi A, Funato H, Hobara T, Otsuki K, Yamagata H, McEwen BS, Watanabe Y: Early life stress enhances behavioral vulnerability to stress through the activation of REST4-mediated gene transcription in the medial prefrontal cortex of rodents. The Journal of Neuroscience 30(45): 15007-15018, 2010

総説

  • Uchida S, Shumyatsky GP. Epigenetic regulation of Fgf1 transcription by CRTC1 and memory enhancement. Brain Res Bull 141:3-12, 2018.
  • Uchida S, Yamagata H, Seki T, Watanabe Y. Epigenetic mechanisms of major depression: Targeting neuronal plasticity. Psychiatry Clin Neurosci 72: 212-227, 2018
  • Uchida S, Shumyatsky GP. Synaptically localized transcriptional regulators in memory formation. Neuroscience 370:4-13, 2018
  • Uchida S, Shumyatsky GP: Deceivingly dynamic: Learning-dependent changes in stathmin and microtubules. Neurobiology of Learning and Memory 124: 52-61, 2015

研究内容

  1. 精神疾患の症状発現に関わる分子神経基盤の解明とその制御法の開発
  2. 精神疾患発病脆弱性の個体差構築に関わる分子神経基盤の解明

プロジェクト終了時の目標

  1. ストレス負荷マウスにおける行動変容に関連した神経ネットワークと原因分子の同定
  2. 臨床・非臨床双方向からのアプローチによる精神疾患症状の神経基盤解明

メンバー

役職/所属 氏名
PI・特定准教授 内田 周作
特定研究員 坂井 祐介
技術補佐員 安田 直人
研究員(非常勤) 李 海燕
大学院生(京大精神科) 船山 由樹
大学院生(京大精神科) 稲葉 啓通